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東京地方裁判所 昭和55年(ワ)6900号 判決 1982年6月28日

原告 株式会社小山

被告 株式会社ダーバン

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、金一億一〇〇〇万円及び内金一〇〇〇万円に対する昭和五五年七月一七日から、内金一億円に対する昭和五六年四月二一日から各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  1につき仮執行宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  原告は、次の商標権(以下、「本件商標権」といい、その登録商標を「本件商標」という。)を有している。

出願   昭和四五年六月二日

出願公告 昭和四七年三月二七日

登録   昭和四八年一月二七日

登録番号 第九九六四四八号

登録商標 別添商標公報のとおり

指定商品 第一七類、被服(運動用特殊被服を除く)

布製身回品(他の類に属するものを除く)

寝具類(寝台を除く)

2(一)  被告は、昭和五三年三月から昭和五五年一月までの間、別紙目録記載の標章(以下、「被告標章」という。)を被告の商品ワイシヤツの値礼に附し、右ワイシヤツを販売した。

(二)  被告標章は、被告の商品ワイシヤツの値札の最上段左方に横に長めに記され、かつ、最終需要者が大きい関心を払う商品の定価及び品質の表示文字等と同等な表示面積を占めており、しかもロープ又は縄(以下、「ロープ」という。)の結び目を表わした図形部になつているから、同じ値札に白く横記されている欧文字「D'

3  被告標章は、外観、称呼、観念のいずれにおいても本件商標と類似する。

(一) 外観について

本件商標は、ロープの二つの巻回によるからみ合いにより八つの交点と七つのループを形成した一つの結び目の図形によつて構成されている。この図形中、ロープの交点、ループ及び巻回の数は比較的印象に残りにくいのに反し、ロープのからみ合いの図形は、印象に強く残るものであつて、この意味で本件商標の要部は、ロープのからみ合い目にあるといわなければならない。被告標章は、ロープ等の一つの巻回によるからみ合いにより四つの交点と四つのループを形成した一つの結び目の図形によつて構成されており、その要部は、ロープのからみ合い目にある。

被告標章は、その要部であるロープのからみ合い目の図形において、本件商標と同一であり、したがつて、両者は外観上類似する。

(二) 称呼について

本件商標と被告標章を構成する図形は、(一)に述べたように、ともに外観上ロープのからみ合い目に帰一するのであるから、これを聴覚的に表現するとすれば、「結び目印」と呼称するのが一般である。したがつて、両者は称呼の点においても同一である。

(三) 観念について

両者ともに視覚的聴覚的の表象としては、ロープのからみ合い目であることは前述のとおりであるから、両者の観念も同一である。

4  被告標章が附されている被告の商品ワイシヤツは、本件商標に係る指定商品の範囲に属する。

5  被告は、昭和五三年三月ころより昭和五五年一月までの間、被告標章を附したワイシヤツ三〇七万七四〇〇枚を販売し、その販売高は合計一一四億四七九二万八〇〇〇円(又は五九億五三二五万九〇〇〇円)であつた。本件商標の通常使用料率はワイシヤツの販売価格の五パーセントが相当であるからその使用料相当額は五億七二三九万六四〇〇円(又は、二億九七六六万二九五〇円)となる。

6  よつて、原告は、被告に対し、右使用料相当額の損害金の内金一億一〇〇〇万円及びその内金一〇〇〇万円に対する不法行為の後である昭和五五年七月一七日から、内金一億円に対する昭和五六年四月二一日から各支払ずみまで、民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求の原因に対する認否及び被告の主張

1  請求の原因1は認める。

同2(一)は認める。同(二)につき、被告は被告標章を商標として使用したことはない。

同3は否認する。同4は認める。同5は否認する。

2  被告標章は、被告の商品ワイシヤツ(ドレスシヤツ)の値札左上部に小さく、縦三ミリメートル、横九ミリメートルの大きさで装飾的に付加された図形に過ぎず、自他商品の識別、機能、品質保証機能、宣伝広告機能を有せず、本来の商標として使用されていない。被告の商品ワイシヤツのヨーク中央部、包装袋及び値札には、被告の商品であることを示す本来の商標として、被告が多額の宣伝費を投じて著名にし、高品質のイメージを持つものとして周知の「D'

3  被告標章は、本件商標とは、外観、称呼及び観念のいずれにおいても類似しない。

(一) 外観について

本件商標は綿や麻の繊維からなる二本のロープが巻回によりからみ合つて八個の交点と七個の小さなループを形成した結び目の図形であつて、その二本のロープがほとんど結ばれた段階での一とかたまりになつた印象を与え、ロープの四個の切断端は繊維がほどけた感じであるのに対し、被告標章は弾性の強い合成樹脂製の太い繊維を撚つたような一本のロープが巻回により交叉し四個の交点と四個の大きなループを形成し、横8の字となつた図形であつて、その環が大きく、結び目という印象を与えないひろがりをもち、ロープの二個の切断端はスツパリ切れている。両者が類似していないことは明らかである。

(二) 称呼について

本件商標、被告標章ともに同一の特定の称呼が導き出されるものではない。原告主張の「ロープの結び目」という称呼は、実際の取引において使用されておらず、称呼における類似を論ずる余地はない。

(三) 観念について

前記外観について述べたとおり、本件商標は二本のロープの結び目の観念を有するが、被告標章は一本のロープが走つて横8の字の模様を形成したもので、環のひろがりがあつて結び目という観念を生じない。

第三証拠関係<省略>

理由

一  請求の原因1及び2(一)の事実は当事者間に争いがない。

二  右争いのない事実によると、本件商標は、綿や麻のような繊維からなる二本のロープがそれぞれl型に交互にからみ合い、ほとんど結ばれた状態での八個の交点と七個の小さなループを形成した結び目の図形からなり、ロープの四つの切断端は繊維がほどけた状態を示していること、被告標章は、弾性の強い太い繊維の一本のロープが巻回により交叉して四個の交点と四個のループを形成し、結び目を締める前の段階における比較的大きいひろがりを持つ横8の字に類似した図形からなることが認められる。

三  右各構成を有する本件商標と被告標章を対比すると、両者が外観上類似していないことは前記構成の差異からして明らかである。

原告は、本件商標及び被告標章の各要部はロープのからみ合い目にあると主張するけれども、成立に争いのない乙第一〇号証によれば、ロープ、ひもの結び方の種類は極めて多く、類似変形のものまで含めると、一〇〇〇種類以上に達することが認められ、日常目に触れる結び目にも種々のものがあることは公知の事実であるから、本件商標及び被告標章の図形のうちその各結び目に特有な構成を捨象して、これを単なるロープのからみ合い目とみることは経験則上認められるところではなく、右主張は採用できない。

次に称呼、観念について、原告は本件商標及び被告標章の各図形の要部がロープのからみ合い目にあることを前提として、両者はともに「結び目印」と呼ばれ称呼を同一にし、その観念も同一であると主張するが、その前提の採りえないこと右に述べたとおりであり、右主張を認めるに足りる証拠はない。かえつて、前掲乙第一〇号証によれば、本件商標の二本のロープの結び方は継ぎ結びのうちのカーリツクベントと称せられ、また、被告標章の一本のロープの結び方は端止め結びのうちのフイギユアエイトノツトと称せられることが認められ、この事実からすると、右両者から生ずることあるべき称呼、観念は、おのずから異なるものとなることが明らかである。

以上のとおり、被告標章が本件商標と類似するという原告の主張は理由がない。

三  よつて、原告の本訴請求は、その余の点を判断するまでもなく理由がないから、これを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条の規定を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 牧野利秋 野崎悦宏 清水篤)

商標公報第一七類

商標出願公告 昭四七―一三八五四

公告     昭四七、三、二七

商願     昭四五―五六四八五

出願     昭四五、六、二

出願人    株式会社小山商店 東京都台東区三筋一の五の一六

代理人    弁理士 笠井保

指定商品   一七 被服(運動用特殊被服を除く)

布製身回品(他の類に属するものを除く)

寝具類(寝台を除く)

目録

被告標章

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